長い独り言

平凡な学部卒サラリーマンの、平凡な人生についての平凡な考察

死後、仕事

 30歳になっても自分の人生はぱっとしなかった。もう楽になりたいと思わない日はなかった。

 

 そんなある日、パチンコ店の前を通り過ぎると、北斗の拳ケンシロウが「お前はもう死んでいる」というふき出しとともに描かれていた。

 

 それを見た私ははっとした。そして、自分はもう死んだということにした。

 

 死後の世界というのは現実と瓜二つで、生きた人間と同じ空間で過ごすのだと知った。ただし死人である自分は透明で、道行く生きた人間からは自分は見えない。

 

 生前に人からされて許せなかったことは全てどうでも良くなった。会社の先輩の陰湿なご指導や退職を伝えた後の上司の態度を思い出すことはなくなった。

 生前に仕事ができなかったことも、希望する会社に入社できなかったことも、どうでも

 女の人に愛されなかったことも、すべてどうでも良くなった。焦って婚活をする必要もなくなった。結婚相談所を退会し、マッチングアプリへの課金も止めた。昔の知人女性に連絡するのも辞めた。

 

 死後の気の遠くなるような時間の中で退屈した私は、結局生前と同じことをした。生前の家に住んで、生前と同じ仕事をした。誰も私の死に気づいてなかったのでそれで全てが回った。

 

 ただそこに辛さはなかった。私の死後の活動を生きた人間のそれと比較しても意味がなく、私には競争をする必要もなければ、自分だけの幸せを見つける必要もなかった。